関係人口に関する自主調査結果 第1回
「関係人口」を取り巻く状況整理と、人口の総量

1 はじめに

1-1 関係人口を取り巻く状況

 我が国の人口は、2008年をピークとし、減少局面に入った。総務省「人口推計(2017(平成29)年10月1日現在)」の発表によると、我が国の総人口は約1億2,670万6千人となっており、7年連続の人口減少となった。また、2015年の国勢調査をベースとした人口国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成 30(2018)年推計)」では、2040年における推計値について、前回の推計(2013年)よりも総人口が減少する地方公共団体数は全体の約7割と発表しており、地方における人口減少はますます加速していくことがわかる。

 我が国の人口減少の要因は、言うまでも無く少子化である。合計特殊出生率の低下に伴う、少子化の影響が中長期的に人口減少を及ぼすことは、すでにわかっていたことである。もちろん、政府も少子化対策に取り組んでいなかったわけではない。1990年代より、エンゼルプラン、新エンゼルプランなど施策を推進してきたが、結果として、少子化を食い止めるほどのインパクトは残せなかった。「国家100年の計」ではないが、少子化対策は少なくとも20年の見通しの中で、着実に政策効果を積み上げていかなければならない施策である。"Too late"と言えば言い過ぎかもしれないが、現在の人口減少は、過去の「政策の失敗」の当然の帰結であると言える。

 さらに、地域における人口問題を考えるならば、少子化による人口の自然減少だけではなく、人口の流出による社会減少にも目を配る必要がある。近年では大阪圏や名古屋圏においても転出超過となっており、東京圏のみが転入超過の傾向が続いている。年間10万人以上が地方圏から東京圏へ転入しているという状態が続いていることを受け、平成30年6月に公表された「まち・ひと・しごと創生基本方針 2018」においても改めて「東京一極集中是正は、国を挙げて取り組むべき喫緊の課題である。」とされている。

 当初、地方創生の施策においては「定住人口」の増加がターゲットとなっていた。そもそも、日本創成会議人口減少問題分科会のスタンスは、「選択と集中」により、各地域が「人口ダム」機能を持つ核となる都市を持ち、希望出生率の増加、人口流出の抑制、人口流入の増加を目指すものであった。しかし、「選択と集中」がないままに、それぞれの地域がそれぞれ人口増加策に乗り出したため、「定住人口」の増加を目指す地方創生策は行き詰まりを見せている。その中で新たに注目されているのが「関係人口」という考え方である。

 総務省は「これからの移住・交流施策のあり方に関する検討会(以下、「検討会」という。)」を立ち上げ、2018年1月に同検討会が報告書を公表している。その中では若者を中心とした「田園回帰の潮流」や都市住民の「ふるさと」との関わりの多様化を踏まえ、長期的な「定住人口」でも短期的な「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる「関係人口」に着目した取組が重要であることを指摘している。また、同報告書では多様な「ふるさと」への想いを受け止める仕組みづくりを行うことで、日常生活機能、地域コミュニティの維持・確保や地域ならではの新しいビジネス・働き方の創出が期待できるとしている。

1-2 関係人口とは

 関係人口とは何か、ということについて、紐解いてみよう。関係人口の定義や概念を提唱、普及させた取組の一つとして、「しまコトアカデミー ソーシャル人材育成講座[1]」がある。本取組のキーパーソンである「月刊ソトコト」編集長の指出一正氏は、著書の中で、関係人口の定義や考え方として次のような考え方を示している。

     

     「関係人口とは、言葉のとおり『地域に関わってくれる人口』のこと。自分でお気に入りの地域に週末ごとに通ってくれたり、頻繁に通わなくても何らかの形でその地域応援してくれるような人たち」(指出 2016)

  また検討会の座長である小田切徳美氏は指出氏らの考察を受けて、「関係人口」を次の通り解釈している。

     関係とは、関心(心を寄せる)+関与(係る)ことであり、つまり「関係人口とは関心×関与フィールドのすべての領域」(ただし、「無関係」「移住者」を除く)。(小田切 2017)

<図表1>関係人口の定義

資料:小田切徳美「「関係人口論」とその展開 -「住み続ける国土」へのインプリケーション-」p.4

 

 このように、関係人口の概念や考え方は徐々に整理されつつあるが、実際に「関係人口」に該当する人口がどの程度存在するかなど、実は定義がしっかりと確定はしていない「ほんわり」とした概念であることは確かである。総務省地域力創造グループの『これからの移住・交流施策のあり方に関する検討会報告書』では、「関係人口」の捉え方や定義が確立されていないことや、その概念が浸透していないことといった課題が示されている。

 

 これらの課題をふまえ、当社ではアンケート調査を実施し、「関係人口」の捉え方の一例を示すとともに、その特徴や特性に関する考察を行った。


[1]島根県が主催し、木楽舎(雑誌「月刊ソトコト」編集部)、株式会社シーズ総合政策研究所が企画運営を手掛ける講座。先進的な地域づくりで知られる島根をフィールドに、地域を学び、実際に出掛けて、自分のかかわり方=コトの起こし方を見つける連続講座となっている。2012年には東京、2015年には大阪でも開講をしており、毎年15人程度の少数制で行われている。

1-3 調査方法

 本調査は、株式会社インテージが構築するインターネット調査モニター「マイティモニター」の登録者(モニター)を調査対象とし、インターネットによるアンケート調査方式によって実施した。

 調査の実施概要、聴取項目等は図表2-1の通り。回答サンプルのうち、矛盾回答[2]を削除した後の計6,008サンプルを有効回答とした。

<図表2-1> 調査概要


[2] 「移住検討地域がある」と回答したにも関わらず、その後の設問で「移住する気はない」と回答したサンプルを矛盾回答(=無効)とした。

2 関係人口の量

2-1 本調査における「関係人口」の定義

 本調査では「関係人口」を、指出氏や小田切氏らの定義を参考としながら、現時点では関心、関与の詳細に係らず"関心がある、関与している地域がある"と回答者自身が考えている場合に「関係人口」とすることとした。

 下記、聴取項目のうち、回答者に対し特定の地域(都道府県、市町村)との関わりの状況を聴取し、本問の回答結果より「関係人口」を算出している。聴取した「関心・関与」の内容は次の通りである。

<図表2-2>「関係人口」に関する聴取項目

 

 このうち、具体的な関係の行動を起こしている「(1)移住を考えている地域がある」、「(2)サブオフィスや、2拠点居住の地域がある」、「(3)好意があり、定期的に通っている地域がある」、「(4)生産物の購入をしたり、友人や知人に積極的に勧めるなどして応援している地域がある」を、関係人口の対象とした。

 なお、「サブオフィスや、2拠点居住の地域がある」と回答している人のうち、他の関係先が全くない回答者については、個人の意思にかかわらず勤め先の関係で回答している可能性があるため、「関係人口」からは除外している。

 結果、「関係先の地域がある」人の総数(=本調査における関係人口)は35.4%となった。
それぞれの項目で関係する地域があると回答した人の割合は次の通りとなっている。

(1)「移住を考えている地域がある」・・・14.8%

(2)「サブオフィスや、2拠点居住の地域がある」・・・3.8%

(3)「好意があり、定期的に通っている地域がある」・・・26.1%

(4)「生産物の購入をしたり、友人や知人に積極的に勧めるなど応援している地域がある」・・12.4%

<図表3> 本調査における関係人口の総量

<図表4> 調査における関係人口の内訳

2-2 「関係している人口」が多い地域とその特徴

  前項では本調査における関係人口の総量を示した。それでは、「関係先」としてどこの地域が回答されているのだろうか。以下<図表5>は、各都道府県の関係量[3]である。

 最も多いのは東京都で5.7%、次いで沖縄県3.0%、北海道が2.6%、福岡県と京都府が2.1%と続いている。


[3] 「関係人口」に関する聴取項目のいずれかに該当する数値を統合し重複を除いた割合。

<図表5> 関係先として回答された地域上位15位 【ベース:関係先があると回答した者】

 

 比較的人口が多い都市で関係人口量が多いという結果が得られたため、居住人口と関係人口の関係を下図のとおり確認した。(図表6)

 関係人口も多く居住人口が多いのは東京都を筆頭に神奈川県、大阪府、千葉県、兵庫県、北海道、福岡県、静岡県。一方、居住人口は少ないが関係人口が多い地域がある。沖縄県、京都府、長野県、宮城県、福島県、熊本県である。沖縄県に至っては人口が100万人を下回るにも関わらず、関係人口量は東京に次いで高くなっており、大きな特徴の1つである。

 一方、埼玉県と茨城県は、人口は多いが関係人口がやや少ないという結果であった。

<図表6> 居住人口と関係人口の関係

 では、関係人口の種類別に見ると、どのような都道府県が挙がってくるのか。

 本調査では、関係人口について2-1のとおり定義したが、分析を行うにあたり「通う」という点で類似している「定期的に通っている地域」、「二拠点居住の地域」を同類として次の通り3つの累計で傾向を確認した。

<図表7>「関係人口」の類型

 

 移住型の地域の上位5位は、東京を除くと沖縄県、北海道、福岡県、神奈川県。観光・交流型の地域の上位5位は東京都を除くと京都府、福岡県、大阪府、沖縄県。消費応援型の地域は、北海道、福島県、熊本県、沖縄県、宮城県となっている。

 先ほどの<図表6>の象限を用いると、移住型と観光・交流型では居住人口と関係人口がともに多い象限の地域が上位を占めるが、消費支援型では、居住人口は多くないが関係人口が多い象限に含まれる地域が上位を占める。同象限の地域には、直近で震災に見舞われた地域が含まれていることから、関係の創出には関係を持つにいたる人や場との出会いの総量に関わらず様々なきっかけがあることが推察できる。

<図表8> 「関係人口」の類型別上位の県

<移住型>           <観光・交流型>        <消費支援型>

 第1回目のコラムでは、関係人口の定義と総量、出現の傾向、種類別の傾向を明らかにした。第2回では、関係人口となる人の特徴や関係の創出のきっかけなどについて深堀の分析を行う予定とする。

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執筆

株式会社インテージリサーチ

公共サービス事業部ソーシャル事業推進部

研究員 櫻木祐輔(さくらぎ ゆうすけ)

研究員 花田洋平(はなだ ようへい)

監修

淑徳大学 学長特別補佐

地域連携センター長

コミュニティ政策学部准教授 矢尾板俊平

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