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インテージ・インフレーション・トラッカー(26年8月)

渡辺努(ナウキャスト&東京大学)

庄司俊章(ナウキャスト&成蹊大学)


本レポートは、株式会社インテージ、株式会社インテージリサーチ、株式会社ナウキャストが共同で実施する、企業の価格設定行動に関する研究プロジェクトの成果物である。また、本レポートに含まれる研究成果の一部は、日本学術振興会(基盤研究A、「長期デフレの原因・帰結・経済厚生」、課題番号:23H00046)及びキヤノングローバル戦略研究所から支援を得た。

今月のポイント


1.店舗の販売価格をもとに算出したCPINOWは、昨年夏以降、インフレ率の減速傾向を示していたが、7月入り後、食品や日用品を製造・販売する企業が値上げに踏み切ったことを背景に、上昇に転じた(図2)。これまで企業間取引にとどまっていたイラン戦争の影響が消費者向け価格にも及び始めた。インフレの第1波(22年春から24年夏)、第2波(24年夏から26年春)に続いて、インフレの第3波が始まった。


2.一方、家計の購買履歴データをもとに算出した購買価格のインフレ率は、5月を底に、上昇に転じた(図15)。流通チャネル別では、ホームセンターとドラッグストアでは、4月を底にインフレが加速しているほか、インフレの鈍化傾向が続いていたスーパーマーケット、オンラインでも、7月からインフレ率の上昇が始まった(図15)。


3.家計の「体感インフレ」は、イラン戦争勃発直後に上昇したものの、その後は加速せず、月を追うごとに低下している。直近では、戦争勃発前とほぼ同じ水準に戻っている(図5)。一方、家計の「インフレ予想」は、戦争勃発直後に大きく上昇した後、一進一退で推移してきたが、イラン情勢の不透明化を背景に、再び高まる気配をみせている(図5、図6)。


4.賃金の先行きに対する家計の見方は、戦争勃発後、緩やかながら悪化している(図9)。その背景には、年後半以降の雇用環境、特に来年の春闘に対する懸念があると考えられる。


5.実質賃金の先行きについても、家計の見方は引き続き悲観的である。実質賃金の上昇を予想する回答者は2%、横ばいを予想する回答者は13%にとどまる一方、低下を予想する回答者は85%に達している(図10)。


6.家計の購買数量は、2024年春以降、前年をわずかに下回る水準で推移してきたが、26年6月に前年比のマイナス幅が拡大した。7月は幾分持ち直したものの、マイナス幅の大きい状況がなお続いている(図12)。その主因は、購買金額の伸び率がプラスからマイナスに転じたことである(図12)。年代別にみると、20代と30代は足元、改善の兆しが見られるものの、40代以上の世代は悪化が続いている(図13)。


7.家計のインフレ予想の分布を推計することにより、インフレ予想がどの水準にアンカーされていたかを調べると、2020年までは、ゼロ%のインフレを予想する家計が非常に多く、ピークを形成していた。つまり、家計のインフレ予想は当時、ゼロ%に強くアンカーされていた(図8)。しかし、ゼロ%のピークは21年春から減り始め、22年春以降はほぼゼロとなっており、現時点ではゼロ%アンカーはほぼ消えたとみることができる。日銀の黒田・植田の両総裁は、①ゼロ%アンカーを外すこと(de-anchor)、②日銀の目標である2%の水準にアンカーし直すこと(re-anchor)を、日銀の課題と位置付けてきた。このうちのde-anchorはほぼ果たせたと評価できる。しかし、イラン戦争勃発直後にインフレ予想の分布の形状が大きく変化したことが示すように、インフレ予想のre-anchorは実現できていない。


インフレ率が2%を上回る家計と企業の割合

約50,000の家計の購買履歴データを用いて、家計ごとのインフレ率をトルンクビスト方式で計測し、全家計のうちでインフレ率が日銀の目標である2%を超える家計の割合を算出した(図の赤線)。一方、企業については、食料品や日用雑貨などの消費財を製造販売しCPINOWに含まれる企業約6000社について、各企業が扱う全商品を対象としてその企業のインフレ率をトルンクビスト方式で計測した上で、全企業のうちでインフレ率が2%を超える企業の割合を算出した(図の青線)。
インフレ率2%を超える家計の割合は52.9%(2026年7月時点)、同じく2%を超える企業の割合は50.0%(2026年7月時点)である。どちらも昨年夏以降、低下傾向にあったが、26年6月を底に上昇に転じた。イラン戦争に伴うエネルギー等の価格上昇の影響がラグを伴って家計に及び始めたと見ることができる。
家計と企業を比べると、23年の企業のピークは65%であり、25年のピークも64%とほぼ同水準であるのに対して、家計のピークは23年が75%、25年が56%と大幅に下がっている。家計は、値上げ商品から値上げしていない商品へとシフトすることに加えて、購入チャネルについても、同じ商品を安く売る店舗に切り替えるといった、節約行動を強めてきたためと考えられる。

図1:インフレ率が2%を上回る家計と企業の割合

インフレの第3波

店舗側のスキャナーデータを利用して計測されるCPINOWは、22年春にデフレからインフレへと反転し、第1波を形成した。インフレの第2の波は24年夏に始まり、26年6月まで続いた。これに続くインフレの第3波が26年7月に始まった。
CPINOWの最近の日次の動きを辿ると(左図)、6月末に前年比1%を割り込むところまで低下した後、7月初に反転し、それ以降、前年比2.5%程度の水準で推移している。
CPINOWはスーパーマーケットなどで販売される商品で構成されているが、7月以降の反転は、食品や日用品などを製造・販売する企業による出荷価格の引き上げが、スーパーなどでの末端の販売価格に反映されたためである。具体的には、7月初には、食パン、カップ麺、食用油などの食品、洗剤、接着剤、おむつなどの日用品の出荷価格が引き上げられた。商品のバーコードに記載されている企業IDを用いて、企業別のインフレ率を計測すると(右図)、これらの商品を製造・販売する企業のインフレ率が7月入り後、顕著に上昇していることが確認できる。出荷価格の引き上げは8月初も続き、ハム・ソーセージ、冷凍食品、使い捨てカイロなどが値上げされ、それに伴って企業別インフレ率が上昇した。
第3波は、これまでの2つの波とほぼ同じ程度の持続期間となり、2027年春まで続くと見込まれる。

図2:インフレの第3波

価格と数量の相関

CPINOWで測ったインフレ率(図の赤の折れ線グラフ)をみると、インフレにはこれまで2つの波があったことがわかる。最初の波は22年春から24年夏まで(ピークは23年夏)であり、第2の波は24年夏から26年6月まで(ピークは25年夏)。最初の波は米欧のインフレの日本への流入に伴うものであり、第2の波は主として国内要因(賃上げとコメ価格上昇)に起因するものであった。この2つの波に続いて、26年7月に、イラン戦争の影響を受けて第3の波が始まった。
CPINOWの対象店舗における売上数量の前年比(青い棒グラフ)とインフレ率(赤線)の相関をみると、インフレが加速する局面では数量の伸びが鈍化する一方、インフレの減速局面では売上数量の伸びが改善する傾向がある。つまり、価格と数量の間には負の相関がある。
インフレが総需要曲線のシフトによって起きている場合は、価格と数量の相関の間に正の相関が観察される。一方、総供給曲線のシフトによって起きている場合は、負の相関が観察される。実際に観察された相関が負という事実は、2度の波をドライブしたのが総需要ではなく総供給ショックであったことを示している。
なお、足元(26年7月)は、価格が上昇に転じる一方、数量前年比は僅かではあるが改善しており、相関が負から正に変わっている。

図3:価格と数量の相関

企業規模別のインフレ率

スーパー等で販売される商品(食品や日用雑貨)に付されているバーコードの情報を利用することで、例えば、日清食品の販売するすべての商品を集めて日清食品のインフレ率を推計することができる。この方法で約6,000社の企業について企業別のインフレ率をトルンクビスト方式で推計し、それを売上金額の大きい順に500社ずつグループ分けして企業規模別のインフレ率を算出した(期間は2021年4月から26年4月まで)。
左図をみると、トップ500社の企業のインフレ率(5年間の累積)は20.7%であり、それに次ぐ500社は17.4%と、それ以下の順位の企業を大きく上回っている。つまり、大企業(売上金額の大きい企業)のインフレ率は中小規模の企業との対比で高い傾向がある。今回のインフレ局面では、大企業がその高い価格支配力を活かして値上げを進め、主導的な役割を果たしてきたことを示唆している。
企業規模別のインフレ率の推移をみると(右図を参照)、22年春から24年春までの第1波ではインフレ率が企業規模に依存する傾向が強かった。例えば、第1波のピーク(23年夏)時のインフレ率は、上位100社は7.7%であったのに対して、上位500社は6.5%、上位1000社は5.9%と顕著な差があった。これとの対比では、第2波における規模間の差は小さい傾向がある。第2波のピーク(25年夏)時のインフレ率は、上位100社、500社、1000社でほとんど差がなかった。第2波以降は、大企業だけでなく、中堅企業も、コスト増を価格に転嫁できるという意味でのプライシングパワーを強めた可能性がある。
足元(26年5月から7月)は、上位100社が5月、6月と、下位の企業との対比で大きく減速した後、7月は急回復を見せている。第1波と第2波では、大企業の価格上昇が先行し、それに中小企業が追随したが、第3波でも同じパターンとなるかが注目される。

図4:企業規模別のインフレ率

インフレに関する家計の「実感」と「予想」

約20,000の家計を対象としたアンケート調査によれば、1年前と比べて物価が「かなり上がった」との回答が26年7月時点で67%を占めている(図の青い棒グラフ)。
イラン戦争勃発以降の推移をみると、戦争勃発直前の26年2月は66%であったが、勃発直後の3月は70%に上昇した。しかし、その後は加速することなく、僅かではあるが、逐月、低下してきている(7月の水準は勃発前とほぼ同水準)。イラン戦争が「体感インフレ」を高めているのは事実だが、①政府のエネルギー補助金により消費者はエネルギー価格の上昇を体験せずにすんでいること、②川上(企業間取引)の価格上昇が消費者に及ぶのが遅れたこと、といった事情から、「体感インフレ」の上昇は小幅にとどまっている。
一方、先行き1年間の物価に関する予想については、「かなり上がるだろう」との回答がイラン戦争の勃発とともに急増した(図の赤い棒グラフを参照。26年2月の33%から3月は46%に増加)。その後、一進一退が続いていたが、イラン情勢が再び不透明化する中で、7月は幾分、上昇しており、インフレ予想が再び高まり始めた可能性がある。

図5:インフレに関する家計の「実感」と「予想」

家計のインフレ予想

約20,000の家計を対象としたアンケート調査によれば(左図、各月の調査時点は月末)、インフレ予想は徐々に低下する傾向にあったが、イラン戦争勃発後の26年3月は、「10‐20%」、あるいは「20%超」といった高いインフレを見込む家計が顕著に増加した。26年4月と5月は、「10‐20%」と「20%超」が引き続き高い割合であった。その後、26年6月は、「10‐20%」と「20%超」が前月との比較で減少したが、26年7月は再び微増となっている。イラン戦争の先行きが再び不透明になる中、インフレ予想が再度上がり始めた可能性がある。
インフレ予想を年代別にみると(右図)、若年層が低く、年齢が上がるにつれてインフレ予想が高まる傾向が見られる(インフレ予想のコーホート効果については渡辺努『物価とは何か』第3章を参照)。イラン戦争の勃発直後の26年3月と4月は、どの世代でもインフレ予想が顕著に上昇したものの、その後は、一進一退となっている。26年7月は、20代で上昇が顕著となっている。

図6:家計のインフレ予想

家計のインフレ「経験」とインフレ「予想」の相関

各家計が実際に経験したインフレと、その家計のインフレ予想はどう関係しているだろうか。その点を調べるために、例えば25年9月であれば、9月末に実施したアンケート調査でのインフレ予想に関するある家計の回答と、その家計の25年7月から9月までの3か月間における購買履歴データを用いて算出したインフレ率(商品間のウエイトはラスパイレスのウエイトを使用)とをペアにして分析を行った。
上図の25年9月の左端の青い棒グラフは、アンケート調査で20%以上のインフレを予想した家計群が25年7月~9月に実際に経験したインフレ率の平均値を表している。同様に、左端から2番目のオレンジ色の棒グラフは、アンケート調査で10%以上のインフレを予想した家計群が実際に経験したインフレ率の平均値を表している。
25年9月の結果をみると、青い棒グラフは他よりも高く、インフレ予想が20%以上と高かった家計は実際に高いインフレを経験したことを示している。同様の傾向は、25年10月についても確認できる。インフレ予想の形成に関する最近の研究では、家計が高いインフレを経験するとインフレ予想が高まると考えられている。ここでの結果は、こうした「経験効果」が当てはまることを示している。
ただし、青い棒グラフが常に最も高いわけではない。例えば、25年11月の結果をみると、青い棒はその隣のオレンジの棒よりも低い。足元でいうと、26年5月と6月は、青い棒が低く、7月は青とオレンジの差がほとんどない。
高いインフレを経験していない家計が高いインフレを予想するという現象は、経験効果だけでは説明しにくい。このことは、家計のインフレ予想が、自らの経験以外の要因によっても変動する可能性を示唆している。例えば、Christopher Carrollは2006年の論文“The Epidemiology of Macroeconomic Expectations”において、家計はインフレに関するメディア報道に「感染」することで、インフレ予想を更新すると主張している。この議論に基づけば、インフレ・ショックが発生した際には、まず、そのショックを実際に経験した家計がインフレ予想を引き上げる。その後、ショックを必ずしも直接経験していない家計にも、メディア報道を通じて情報が伝わり、インフレ予想の上昇が波及していく、というメカニズムが考えられる。

図7:家計のインフレ「経験」とインフレ「予想」の相関

家計のインフレ予想分布の変遷

インフレ予想をみる上での重要な視点は人々の予想がどの水準にアンカーされているかである。内閣府の消費動向調査を用いて、家計のインフレ予想の分布を推計し、インフレ予想のアンカー水準の変遷を調べた。
左上の図は、2012年4月におけるインフレ予想の分布である。1年後の物価について「2~3%上昇する」との回答が多い一方、「変わらない」、すなわちゼロ%との回答にはさらに大きな集中がみられ、独立した大きなピークを形成していた。これは、当時、家計のインフレ予想がゼロ%に強くアンカーされていたことを示している。
この当時、日銀がゼロ%インフレを明示的に約束していたわけではない。それでも、1990年代半ば以降の長期にわたる価格据え置きを経験する中で、「物価は上がらない」という予想が家計のマインドに深く染みついていたことを示している。
左下の図は、足元(2026年7月)の分布であり、ゼロ%への集中がほぼ消えていることがわかる。22年春以降、インフレ局面に入る中で、インフレ予想のゼロ%アンカーが外れたことを示している。ゼロ%のピークの高さのこれまでの変遷みると(右上の図)、ゼロ%への集中は、パンデミック直後にいったん高まったものの、21年春に低下に転じ、22年春以降は極めて低い水準で安定的に推移している。
右下の図は、各月の分布の最頻値(ゼロ%を除く分布のピーク)を推計した結果を示している。26年2月に3.1%だった最頻値は、4月には4.4%まで上昇した。この背景にあるのはイラン戦争である。戦争勃発前の2月から僅か2カ月で、最頻値は1.3%ポイントも上昇したことになる。この結果は、家計のインフレ予想は日銀の目標値である2%という水準にアンカーされていないことを示している。

図8:家計のインフレ予想分布の変遷

自らの賃金に関する家計の予想

約20,000の家計を対象とするアンケート調査で自分の賃金が1年前と比べてどう変化したかを尋ねると、21%の家計が「賃金は上昇した」と回答(調査時点は26年7月末時点)。足元の賃金が上昇したと認識する家計の割合は、23年春以降の春闘での高い賃上げを反映して、23年3月以降、徐々に増えてきた。ただし、昨年後半以降は、改善が頭打ちになっている。
一方、自分の賃金の先行きに関する設問では、自分の賃金がこの先1年間で上昇するとの回答は15%にとどまっている(調査時点は26年7月末時点)。イラン戦争勃発直前の26年2月は17%であったが、勃発後は僅かながら低くなっている。イラン戦争が来年の春闘での賃上げに悪影響を及ぼすと家計が予想している可能性がある。

図9:自らの賃金に関する家計の予想

自らの実質賃金に関する家計の予想

約20,000の家計を対象としたアンケート調査で尋ねた「自分の賃金の先行き」に関する回答(図9)を「物価の先行き」に関する回答(図5)と組み合わせることにより、実質賃金の先行きに関する予想を調べた。例えば、先行きの賃金は「据え置きだろう」と回答した家計が、先行きの物価について「かなり上がるだろう」と回答した場合、実質賃金については「下がるだろう」との予想と解釈した。
26年7月時点では、85%の家計が実質賃金の低下を予想しており、実質賃金据え置きの予想が13%、実質賃金上昇の予想が2%であり、実質賃金に関して悲観的な見方が非常に多い。イラン戦争勃発前の26年2月と比べると、賃金の先行きに関する見方が僅かではあるが悪化する一方(図9を参照)、先行きの物価が上がるとの見方が増えており(図5を参照)、その結果、実質賃金が下がるとの悲観的な見方が顕著に増えている。
なお、ウクライナ戦争の勃発直後の22年5月も実質賃金の予想が顕著に悪化したが、このときも、賃金の先行きに関する見方が悪化する一方、先行きの物価が上がるとの見方が急増した。ウクライナ戦争とイラン戦争は、同じメカニズムで実質賃金の先行きに関する家計の予想を悪化させたことを示している。

図10:自らの実質賃金に関する家計の予想

家計の値上げ耐性

約20,000の家計を対象としたアンケート調査で、「馴染みの店でいつも買っている商品の値段が10%上がった」との状況設定の下で、どう対応するかを尋ねた。具体的には、「何も変わらない。それまでと同じように、その店でその商品を同じ量、買い続ける」という対応に対して、「よく当てはまる」「当てはまる」「あまり当てはまらない」「まったく当てはまらない」という4つの選択肢を示して尋ねた(それぞれが図の横軸の1、2、3、4に対応)。同様に、「その商品をその店で買うのをやめる。その商品を値上げせずに売っている別な店を探す」という対応に対して当てはまるか否かを尋ねた。
「何も変わらない」との対応への回答をみると(左図)、21年4月の調査では、「当てはまる」が40%に対して「あまり当てはまらない」が47%と、否定的な見方が多かった。一方、「他店に移る」という反応への回答をみると(右図)、21年4月の調査では、「よく当てはまる」「かなり当てはまる」が多かった。デフレ期には、値上げに直面すると他店に逃げる家計が多かったことを示している。
この傾向に変化が見られたのが22年5月であり、「他店に逃げる」が減る一方で「何も変わらない」が増えた。22年2月のウクライナ戦争勃発を契機として、値上げに直面しても逃げない傾向、つまり、値上げ耐性が強まったと解釈できる。
イラン戦争勃発の前後でみると、「何も変わらない」が「よく当てはまる」または「当てはまる」と回答した人の割合は、48%(26年2月)→48%(7月)と不変である。一方、「他店に逃げる」が「よく当てはまる」または「当てはまる」と回答した人の割合は、57%(26年2月)→53%(7月)であり、緩やかに減少している。これらの結果は、家計の値上げ耐性が戦争勃発後、緩やかに回復しつつあることを示唆している。

図11:家計の値上げ耐性

家計の購買価格と購買数量

約20,000の家計の購買履歴データを用いて家計が購買する価格に関するインフレ率をトルンクビスト方式で算出すると(図の青線)、23年夏をピークとする第1波と25年春をピークとする第2波に続いて、26年7月から第3波が始まったことが確認できる。スーパー等の店頭での販売価格と概ね同じ推移を辿っている(図2及び図3を参照)。
次に、図の赤線は家計の購買数量の前年比を表している。赤の破線は、当月と前年の同じ月の両方の時点で存在する商品を対象として購買数量の変化率を算出した結果を表している(インフレ率の計算では両時点で存在する商品を対象としているのでそれと平仄を合わせるため)。これに対して、赤の実線は当月と前年の同月のどちらか片方にしか存在しない商品も購買数量の変化率を計算する際の対象としている。
赤実線をみると、購買数量は23年秋までは前年を上回っていたが、その後は前年を僅かに下回る形で推移してきた。足元は、6月に前年比のマイナス幅が拡大した後、7月はマイナス幅が僅かながら縮小した(▲1.1%(26年5月)→▲5.3%(26年6月)→▲4.5%(26年7月)。26年6月のマイナス幅拡大の主因は、購買金額の伸びがプラスからマイナスに転じたためであり(右の表を参照)、インフレの第3波が始まる中で、家計の購買姿勢が幾分慎重化している可能性を示唆している。

図12:家計の購買価格と購買数量

家計の年齢別にみたインフレと購買数量変化率

購買価格インフレ率を家計の年代別にみると(左図)、26年1月は、60代が最も高く、それとの対比では若年層は低い傾向があった。その後、各世代のインフレ率は徐々に低下したが、26年5月を底に、再び緩やかな加速に転じている。
足元(2026年7月)は50代のインフレ率が最も高くなっている。ただし、年代間の差は精々1%ポイントであり、家計別インフレ率の標準偏差が4%ポイント超と極めて大きいことを踏まえると(26年4月レポートの図16を参照)、年代間のインフレ格差は小さい。
次に、購買数量の伸び率を年代別にみると(右図)、足元(2026年7月)は20代と30代の伸び率に改善傾向が見られるものの、40代以上の世代では改善の傾向が見られない。

図13:家計の年齢別にみたインフレと購買数量変化率

家計の所得別にみたインフレと購買数量変化率

購買価格インフレ率を家計の所得階層別にみると(左図)、26年1月は、年収700万から900万の層が最も高く、2月以降についても、年収の高い層で高い傾向があった。その後、各階層でインフレ率が緩やかに低下したが、足元は、5月を底に、再びインフレ率の加速が各階層で起きている。
ただし、インフレ率の格差は精々0.5%ポイント程度であり、家計別インフレ率の標準偏差が4%ポイント超と極めて大きいことを踏まえると(26年4月レポートの図16を参照)、所得階層間のインフレ格差は小さい。
次に、購買数量の伸び率を所得階層別にみると(右図)、足元(2026年7月)は、550万-700万、700万‐900万の所得階層で幾分改善しているものの、その他の所得階層では悪化している。

図14:家計の所得別にみたインフレと購買数量変化率

家計の節約行動

インフレ下における家計の節約行動の効果を計測するため、いくつかのインフレ指標を計測した。まず、家計の購買履歴データを用いて、約350社の小売企業それぞれについて商品別の単価を算出し、その変化率を集計することでインフレ指標を作成した。左図の“Posted prices: Laspeyres”は、集計の際にラスパイレスのウエイトを用いた場合、また、 “Posted prices: Tornqvist”はトルンクビストのウエイトを用いた場合である。両者の差は、値上げ率の高い商品から低い商品への切り替えという、「商品間の代替」がもたらす節約効果を表している。次に、同じ購買履歴データを用いて、今度は、小売企業のそれぞれについて商品単価を算出するのではなく、小売企業全体での単価を算出し、その変化率を集計することでインフレ指標を作成した(左図の“Effective prices: Tornqvist”)。この指標には、価格の安い店舗に消費者が移動する「店舗間の代替」の効果が反映されている。
これら指標の足元(2026年7月)の動きをみると、“Posted prices: Laspeyres”と“Posted prices: Tornqvist”の差は約1.1%ポイントと大きく、前月と対比でギャップは縮小していない。家計が「商品間の代替」による節約を引き続き積極的に進めていることを示している。一方、“Posted prices: Tornqvist”と“Effective prices: Tornqvist”を比較すると、“Posted prices: Tornqvist”が5月を底に上昇に転じたのに対して、“Effective prices: Tornqvist”は6月まで低下が続き、7月にようやく上昇に転じた。この結果、両者の差が幾分拡大した。第3波のインフレが始まる中で、家計が「店舗間の代替」による節約を続けていることを示唆している。
左図の“Posted prices”が足元で反転している状況を詳しく見るために、右図では“Posted prices”を流通チャネル別に示している。「ホームセンター」と「ドラッグストア」は、26年4月を底に、逐月インフレ率が加速している。一方、「オンライン」と「スーパーマーケット」は、これまで伸び率が鈍化傾向にあったが、6月を底に、7月から上昇が始まった。

図15:家計の節約行動

SCI®(全国消費者パネル調査)

全国15歳~79歳の男女70,000人の消費者から継続的に収集している日々の買い物データです。食品、飲料、日用雑貨品、化粧品、医薬品、タバコなど、バーコードが付与された商品について、「誰が・いつ・どこで・何を・いくつ・いくらで、購入したのか」という消費者の購買状況を知ることができます。

※SCIでは、統計的な処理を行っており、調査モニター個人を特定できる情報は一切公開しておりません。


調査概要

調査名  :物価に関するアンケート調査

調査内容:現在・将来の物価/賃金の認識、物価上昇時の行動、日々の消費行動、幸福度とその要因等

調査対象:ネットモニターおよび SCI® モニター

調査期間:2016年3月、2017年2月、2018年5月、2019年3月、2020年3月、2021年4月、2022年5月、2023年3月、2024年3月、2025年3月、9月〜2026年7月

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